コロナウイルス SARS-CoV-2 のNタンパク(ヌクレオカプシド)に対する抗体(抗N抗体)が多いと、重症化メカニズムが働くという説があります。
「敵であるウイルスの成分に対する抗体」のくせにワルサを働くという衝撃的でユニークな説です。
提唱者は、阪大微研(大阪大学微生物病研究所 ウイルス感染制御分野)の 中山英美 さんです。
日本語による解説としては、岩波書店の「科学 第92巻 第12号 2022年12月1日 pp.1083-1090」 に 「新型コロナウイルスと抗体依存性増強ADE」(中山英美)という記事を投稿されています。
もともとは、ADE(抗体依存性感染増強)についての研究から抗N抗体悪玉説は生まれたようです。
抗N抗体によるワルサを図で描くと次のようになります。
ウイルスのSタンパク(スパイク)に対する抗S抗体がたくさんあると、抗N抗体によるワルサを抑制できると考えられています。
いわば、抗N抗体悪玉説と抗S抗体善玉説です。
次図の「Protective = 防御的」、「Detrimental = 有害な」という意味です。
ハゲタカと名高いMDPIが、出版料をタダにすると言うので、普段のツイートを総説にまとめました。
— Emi E. Nakayama MD, PhD (@EmiNakayama7) December 16, 2024
言いたかったことは、この図が端的に示しています。https://t.co/Qeu6rJ2iDi pic.twitter.com/RqAg9j5KdK
「X(旧Twitter)」にも解説等の案内があります。
ADE antibody dependent enhancementという言葉を見るようになりましたが、ADEにも何種類か違う機序があるのをご存知でしょうか?
— Emi E. Nakayama MD, PhD (@EmiNakayama7) August 13, 2022
我々はデング熱の重症化要因の探索の中でADEについて研究していました。これからの連続ツイートでSARS-CoV-2で考えられる3種類のADE (1/N)
中山英美さんは、かなりしっかりと証拠を集めており、抗N抗体によるワルサは、メカニズムとしては生体内でも起こっている可能性が大きいと考えられます。
自然なコロナ感染後、再感染予防のために抗N抗体や抗S抗体が産生されて血液中にありますが(半年~数年間;個人差あり)、抗N抗体は抗S抗体より早く産生を止めます。その理由は不明ですが、「抗N抗体悪玉説」と関係している可能性があります。
抗N抗体によるワルサに拮抗できるものとして中山英美さんは抗S抗体に着目しています。
しかし私は、生身の人体内では、抗N抗体によるワルサが、抗S抗体だけではなく「抗S抗体以外の他のメカニズム」によっても抑制されていて、(一部を除く)多くの感染者の臨床治療においては、抗N抗体の過剰をそれほど重視しなくてもよさそうだと感じています。
その理由を説明します。
私の2回目の感染では、おなかのコロナによる免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)がおこり、(オミクロンを含む)武漢系のスパイクに対する抗S抗体の産生がほとんど無かったため、感染ウイルスに対する「抗N抗体」が「抗S抗体」よりもかなり優勢な状態となり、「抗N抗体悪玉説」のメカニズムの働く恐れがありました。
(注:ここではおなかのコロナに対して、呼吸器に感染するコロナをすべて武漢系と呼んでいます)
しかし幸運なことに、わりとありふれた臨床経過をたどりました。
私の場合、(抗S抗体以外の)何らかの理由で抗N抗体による重症化を免れた「抗N抗体サバイバー(生き残り)」ということになります。
(注:何らかの理由があるはずであり、「抗N抗体悪玉説」を否定できる臨床的反例ではありません。)
私の3回目の感染では、2回目の感染により武漢系のスパイクに対する抗S抗体の産生がおこなわれたので、「抗N抗体」による脅威にさらされる心配はありませんでした。
3回目の感染後は、ジワーッと長く続く免疫抑制があり、ウイルスが長期間残存してワルサを働いたと考えられます。「Long COVID っぽい」頭のスッキリしない状態が長く続きました。
ところで、「抗N抗体サバイバー」は私ひとりではありません。
私と同じ順序でコロナに感染した人(未接種でおなかのコロナ → 未接種のまま武漢系コロナ)は、全員「抗N抗体サバイバー」です。
「おなかのコロナ(湘南コロナ)」の拡がり(神奈川県南西部 → 横浜 → 日本全国)を考えると、「抗N抗体サバイバー」は 数十万人 ~ 数百万人 というオーダーになるかもしれません(国民の約8割のmRNAワクチン接種者が除かれるので数千万人というオーダーにはなりません)。
しかし、特に神奈川県で重症になる人が多いというような話題は出ていません。
抗S抗体に頼ることのできなかった「抗N抗体サバイバー」がたくさんいることを考えると、実際の生体内では、複雑ないろいろな要因が働いて抗N抗体のワルサを帳消しにしている可能性が考えられます。
いろいろな証拠から抗N抗体がワルサを働いているのはかなり確かなようですし、そのワルサを抗S抗体が抑える可能性はあるでしょうが、他の要因の働きでも抑えられていると考えられます。
したがって、比較的健康な多くの人々にとって「臨床的には過度に抗N抗体のことを心配する必要はない」と言えそうです。
この「心配ない」は、一部の人には当てはまらない可能性があり、どのような人では抗N抗体に注意が必要なのかといった研究も必要になるでしょう。
具体的な臨床経過や実際の検査報告書を見たいという方は「補足説明7:感染例」へ:▶ ▶ ▶(補足説明7:感染例 → 補足説明8:2度目の感染)一般の方は、報告書などの写真を見るだけに留めましょう。説明は読まない。読むと地獄を見る 😭